ある歯科医院の口コミサイトに寄せられた苦情をまとめたデータを目にする機会がありました。詰め物がすぐ取れる、治療が痛い、待ち時間が長い、何回も通わされる…。どれも日々の診療の中で、先生方が一度は耳にしたことのある内容かもしれません。

ただ、そのデータの中で興味深かったのは、男性患者さんからの苦情が女性のそれをわずかながら上回っていたという点です。以前は女性の方が歯への関心が高い傾向にあったのに対し、男性の意識も確実に変化している。そして年代別で見ると、昨年は30代女性が多かったのに対し、今年は40代男性の声が目立つようになっているというのです。

声を上げる人が変わってきた

これは単なる数字の話ではなく、患者さんの層そのものが変わりつつあることを示しているのかもしれません。2、3年後にはさらに年齢層が上がっていく可能性も見えてきます。つまり、これまでとは異なる価値観や期待を持った患者さんたちが、医院の門を叩くようになるということです。

もちろん、苦情の内容そのものは決して新しいものではありません。詰め物の不具合、治療時の痛み、待ち時間や治療回数への不満、自費診療の提案に対する抵抗感—どれも歯科医療の現場では長年向き合ってきた課題です。

患者さんが求めているのは、何なのか

ここで立ち止まって考えてみたいのは、これらの声の背景にあるものです。

「詰め物がすぐ取れる」という不満は、必ずしも技術的な問題だけではないかもしれません。もしかしたら、治療後のケアや注意点が十分に伝わっていなかったのかもしれない。「何回も通わされる」という声には、なぜこれだけの通院が必要なのか、その理由が腑に落ちていないのかもしれません。

「待ち時間が長い」は時間的な負担だけでなく、予約制なのになぜ待つのか、という疑問や不信感につながることもあります。「自費診療をすすめられる」という言葉には、その提案が自分にとって本当に必要なのか、押し売りではないのか、という不安が見え隠れします。

つまり、苦情として表れている言葉の裏には「分からない」「不安」「信頼できるか分からない」といった感情があるのではないでしょうか。

説明すること、伝えることの難しさ

日々の診療の中で、先生方は丁寧に説明をされていることと思います。ただ、こちらが話したことと、患者さんが理解したこと、そして納得したことの間には、思いのほか距離があるものです。

例えば「この治療は保険適用外になりますが、長持ちしますよ」という説明が、患者さんには「高いものを売りつけられている」と感じられてしまうこともある。「あと数回通っていただく必要があります」という言葉が「いつまで通わせるつもりなんだ」という不満につながってしまうこともある。

それは決して先生方の説明が足りないからではなく、医療者側と患者側の間に、そもそもの前提知識や価値観の違いがあるからなのかもしれません。

男性患者、40代という変化が示すもの

冒頭で触れた、男性患者の増加や40代の声の増加という傾向。これは考えてみれば興味深いことです。

40代というのは、働き盛りであると同時に、健康への意識が高まり始める年代でもあります。家族を持ち、将来のことを考え始める。自分の歯を長く保ちたいと思う一方で、仕事の都合もあり時間的な制約も大きい。そうした背景を持った患者さんが増えているということは、医院側にもこれまでとは違った配慮や対応が求められているのかもしれません。

例えば、治療計画を立てる際に「全体で何回くらいかかるのか」「どのくらいの期間が必要か」といった見通しを最初に示すことで、患者さんの計画も立てやすくなるかもしれません。仕事の合間を縫って通院している方にとって、これは小さなことではないはずです。

完璧である必要はない、でも

誤解してほしくないのは、すべての苦情に応えなければいけない、すべての患者さんを満足させなければいけない、ということではないと思うんです。医療である以上、限界もあれば、どうしても避けられないこともあります。

詰め物が取れることもあるでしょうし、麻酔が効きにくい方もいらっしゃいます。予約が重なって待ち時間が発生することもあります。治療内容によっては、どうしても複数回の通院が必要になることもあります。

大切なのは、そうした「仕方のないこと」をどう伝えるか、ということなのかもしれません。

これからの医院づくりのヒント

患者さんの声—特に苦情—を受けるには、心が重くなる作業かもしれません。ただ、そこには医院をより良くしていくためのヒントが隠れています。

「なぜこの患者さんはこう感じたのだろう」と考えることは、医院の課題を発見する機会になります。「どう伝えればもっと理解してもらえるだろう」と工夫することは、スタッフ全体のコミュニケーション力を高めることにつながります。「この不満を減らすには何ができるだろう」と話し合うことは、チーム全体で医院を良くしていく文化を育てると思います。

そして何より、患者さんの声に耳を傾け、真摯に向き合っている医院には、自然と信頼が集まっていくものです。

最後に

男性患者の増加、40代からの声の増加。こうした変化は、歯科医療を取り巻く環境が少しずつ変わっていることを示しています。患者さんの期待も、求めるものも、変わってきているのかもしれません。

ただ、どんなに時代が変わっても、変わらないものもあります。それは「患者さんの歯を守りたい」という先生方の思いと、「信頼できる歯医者さんに診てもらいたい」という患者さんの願いです。

苦情として届く声は、時に厳しく、時に理不尽に感じられることもあるかもしれません。でも、その一つひとつが、患者さんからのメッセージでもあります。「もっとこうしてほしい」「ここが分からなかった」「こんなふうに感じた」そうした声に、少しずつでも応えていくこと。それが、これからの医院づくりにつながっていくのではないでしょうか。