国民皆歯科健診とは?制度の目的と現状

政府は2025年度の導入を目指して「国民皆歯科健診」制度の準備を進めています。
これは、すべての国民が定期的に歯科健診を受けることを目指す仕組みで、
口腔の健康を通じて医療費全体の削減と健康寿命の延伸を目的としています。

2019年度の国民医療費統計によると、歯科診療医療費は約3兆150億円で、
国民医療費全体(約44兆3,895億円)の約6.8%を占めています。
この比率を下げるために、病気の「治療」よりも「予防」に重点を置く政策へと
転換が進められているのです。

厚生労働省と日本歯科医師会は現在、
企業健診への歯科項目の統合や検査基準の整備を協議中であり、
制度の詳細はまだ正式には決まっていません。


歯科医院経営への影響:本当に「患者増=経営安定」なのか?

国民皆歯科健診の導入によって「患者数が増えて儲かる」と思われがちですが、
現場の実態はそう単純ではありません。

現在でも、歯科医院は地域ごとに患者数と受け入れ体制のバランスが難しい状況にあります。
健診義務化によって一時的に受診希望者が増加しても、
限られたスタッフ・チェア台数での受け入れには限界があります。

結果として、

  • 定期検診枠の予約が取りづらくなる
  • 急患対応が難しくなる
  • 新規患者の受け入れに制限が生じる
    といったリスクが想定されます。

歯科医院が今から備えるべき3つのポイント

1. 既存患者を守る「優先予約体制」の確立

国民皆歯科健診によって新規受診希望が急増すると、
既存の定期検診患者の予約が取りづらくなる恐れがあります。
そのため、既存患者の優先枠を確保する運用ルールを早めに整えておくことが大切です。


2. 健診対応の流れを見直す

健診の問い合わせや受診希望が増えることを想定し、
受付から検査、説明までの流れを整理しておくことが大切です。
無理のない範囲で記録方法や予約管理を整えるだけでも、
スムーズな対応につながります。


3. スタッフ教育と情報共有の強化

制度が始まれば、患者からの質問も増えることが予想されます。
歯科衛生士や受付スタッフが自信を持って説明できるよう、
制度内容や医院の対応方針を定期的にミーティングで共有しておきましょう。


今こそ「予防歯科」を定着させるチャンス

国民皆歯科健診の導入は、歯科医療にとっての転換点です。
しかし、それは同時に「予防歯科」の価値を再確認し、
地域の患者さんにその重要性を伝えるチャンスでもあります。

制度が始まる前から定期検診やクリーニングを習慣化している患者ほど、
健診制度開始後もスムーズに受診でき、健康維持につながります。

歯科医院としても、制度に振り回されるのではなく、
「予防で通う文化」を医院から広げていく姿勢が求められます。


まとめ:制度導入前の今こそ準備を

国民皆歯科健診は、国全体の医療費削減を目的とした重要な政策です。
しかしその実施によって、現場の歯科医院には
受け入れ体制の見直しや予約管理の最適化など、
多くの課題が生じる可能性があります。

2025年度の制度導入を見据え、
今から「患者との信頼関係」「予防歯科の定着」「運営体制の整理」
という3つの柱で備えることが、
これからの歯科医院経営の安定につながると思います。