~歯科医院で起こる見えにくいハラスメント~

フキハラとは?

「不機嫌ハラスメント(通称:フキハラ)」は、言葉による攻撃がなくても、「あからさまな不機嫌な態度」「無言」「ため息」「物に当たる」などを通じて周囲に精神的な圧をかけるハラスメント行為です。

明確な暴言や暴力はないものの、周囲は「機嫌を損ねないように」と顔色を伺い、職場に緊張感が蔓延します。

歯科医院でよくあるフキハラの例

小規模なチームで運営される歯科医院では、上下関係が明確な分、フキハラの影響が大きく出やすい傾向があります。

たとえば、以下のようなケースが挙げられます:

  • 院長が朝から不機嫌で口をきかず、診療中も舌打ちやため息を繰り返す
  • ベテランスタッフが新人に対して無言の圧力をかける
  • 誰かのミスに対して「誰がやったか」は言わず、診療中ずっとピリピリした雰囲気を出す
  • スタッフルームで物を乱暴に扱うなどの“音”による威圧
  • 足をガタガタ揺らす(びんぼうゆすり)ことで無言の苛立ちを表す
  • 業務に関する明確な指示がなく、「自分で考えて」と突き放す態度
  • メールや連絡ツールで業務上の必要な指示が一切来ない、あえて無視される

これらは一見すると「ただ機嫌が悪いだけ」「忙しいから」と見過ごされがちですが、受け取る側のストレスは計り知れません。

フキハラによる悪影響

フキハラは、スタッフの心をじわじわと蝕み、以下のような影響を引き起こします:

  • スタッフ同士の連携が悪化し、診療の質が下がる
  • 離職率の上昇(「人が定着しない医院」になる)
  • スタッフのメンタル不調や休職
  • 働きやすい職場とは言えず、採用が困難になる

フキハラは“訴え”の対象になる?

現代では、ハラスメントの認識が年々強まり、明確な証拠がなくても「精神的な圧力が継続的にあった」として労働局や弁護士に相談されるケースも増えています。

実際に、フキハラで退職したスタッフが証言や周囲の証拠(録音、LINEでのやりとりなど)をもとに労働審判や損害賠償請求を起こす可能性もあります
また、労基署やハローワークに「ハラスメントが原因で辞めた」と申告された場合、医院の信用や採用にも大きな影響を与える可能性があります。

歯科医院としての対策

フキハラを未然に防ぐために、医院側ができることは以下の通りです:

  • ハラスメントに関する研修を行い、感情の扱い方について学ぶ
  • 院長・リーダーが「不機嫌は無言の暴力」と自覚する
  • スタッフが気軽に相談できる体制を整える(第三者窓口や定期面談)
  • ミスやトラブルが起きたときこそ、冷静に建設的な対応をする意識づけ

自分自身も“加害者”にならないように

フキハラは特定の立場だけが行うものではありません。
ときには、日々の疲れやストレスから、自分でも気づかないうちに不機嫌な態度を取ってしまうことがあります。そうした態度が周囲に悪影響を与えていないか、振り返ることも大切です。

「自分の機嫌は自分で取る」
これは、職場の人間関係を良好に保つための大原則です。
自分の感情をコントロールする力は、リーダーにとってはもちろん、スタッフ一人ひとりにも必要な力です。

もしイライラや不満を感じたときは、その感情を直接ぶつけるのではなく、いったん距離をとる、紙に書いて整理する、相談できる人に話すなどの方法で、自分の感情を「処理する力」を育てましょう。

フキハラは見えにくく、しかし確実に組織を蝕む“静かなハラスメント”です。
とくに小規模な歯科医院では、人間関係の影響が診療にも直結します。
「うちの医院には関係ない」と思わず、今一度、医院全体で“心地よく働ける空気”をつくっていきましょう。


今、求められるのは“無関心ではなく、理解と実行”

昨今、大型歯科医院や病院などでは、ハラスメントに関する講習会や研修が定期的に行われ、スタッフ同士の意識も高く、ハラスメント防止に本気で取り組む施設が増えています。
これからの時代、「知らなかった」「そんなつもりはなかった」では通用しなくなっていきます。

一人ひとりが「自分ごと」として捉え、正しい知識と配慮をもって接することが、健全な職場づくりにつながります。
気づいた人から意識を変え、行動を変えることが、職場全体の未来を守ることにつながります。