こんにちは。最近、歯科関連のキーワードを調べていたところ、「歯科医院指さし英語」というワードに一定の検索需要があることがわかりました。私自身、この結果を見たとき、「ああ、やっぱりそういう時代になってきたんだな」と実感しました。
PDFなどで公開されている指さし英語ツールを見ると、患者さんとのコミュニケーションにおける工夫として、多くの医院で実際に活用されているようです。スマートフォンの通訳機能も年々進化していますし、テクノロジーの力を借りれば、確かに言葉の壁はだいぶ低くなりました。
でも、本当にそれだけで十分でしょうか?
外国人患者さんが増えている今、「ツールがあれば何とかなる」と思っていると、思わぬトラブルに直面することがあります。今日は、外国人患者対応について、現場で実際に起きていることや、これから求められる対応について、一緒に考えてみたいと思います。
言葉が通じないだけじゃない――現場で起きている”すれ違い”
外国人患者さんと接する際、最も多いトラブルは、やはり言語の壁による意思疎通のズレです。これは誰もが想像できることだと思います。
たとえば、患者さんが症状を説明しようとしても、うまく伝わらない。先生が診断に必要な情報を引き出せない。治療内容を説明しても、相手が本当に理解しているのかわからない。こうした場面、先生方も経験されたことがあるのではないでしょうか。
特に厄介なのが、治療後の痛みや副作用、注意事項がきちんと伝わっていないケースです。患者さんは不安を抱えたまま帰宅し、場合によっては「説明を受けていない」と感じて、医院への信頼を失ってしまう。こうなると、治療そのものは成功していても、患者満足度は大きく下がってしまいます。
また、意外と見落とされがちなのが、医療制度や保険に関する誤解です。外国人患者さんの中には、日本の国民健康保険の仕組みを十分に理解していない方もいます。自己負担額や保険適用の範囲について、説明が不十分だと「こんなに高いとは思わなかった」とクレームに発展することも少なくありません。
特に、自費診療と保険診療の区別が曖昧なまま治療を進めてしまった場合、後から料金トラブルが発生するリスクが高まります。「保険が効くと思っていた」「説明と違う」といった声は、実際によく聞かれます。
文化の違いを「誤解」していませんか?
言葉以上に難しいのが、文化的な違いです。
たとえば、治療中にうなずかない患者さん、表情に乏しい患者さん、目を合わせない患者さん。日本人の患者さんとは異なるリアクションを示すことがありますが、これを「不満があるのでは?」「ちゃんと聞いていないのでは?」と受け取ってしまうスタッフもいます。
でも実際には、文化的な背景によるものであることが多いんです。プライバシーに対する考え方、医師への信頼の示し方、痛みの表現方法なども、国によってさまざまです。こうした違いを知らないまま対応すると、お互いに不信感を抱いてしまうこともあります。
さらに厄介なのが、「理解したふり」をされるケースです。患者さんが「OK」「Yes」と言っていても、実は内容を正しく把握していないことが結構あります。日本では、わからなくても「わかりません」とはっきり言わない文化がありますが、これは外国人患者さんにも見られる傾向です。
後から「そんな説明は受けていない」となるのを防ぐには、繰り返しの確認、簡単な英語を使った説明、そして図や写真を使った視覚的な補助が非常に有効です。言葉だけに頼らず、「見せる」「確認する」ことが大切になります。
トラブルを防ぐために、今できること
こうしたトラブルを未然に防ぐには、何が必要でしょうか。
まず、事前の説明を丁寧に行うこと。そして、相手の理解度をしっかり確認すること。さらに、文化的な違いを理解し、尊重する姿勢を持つこと。これらは基本中の基本ですが、忙しい診療の中では意外と抜け落ちてしまいがちです。
言葉以上に「伝わる工夫」が求められる時代です。ツールやアプリはもちろん便利ですが、それを使う側の「伝えたい」という気持ちと、相手を理解しようとする姿勢がなければ、本当の意味でのコミュニケーションは成立しません。
これからの歯科医院に求められる、グローバル対応力
グローバル化が進む現代において、歯科医院でも外国人患者への対応力を高めることは、もはや避けては通れない課題です。「うちの地域には外国人があまりいないから」と思っていても、観光客、技能実習生、留学生など、予想以上に多様な人々が日本で暮らし、訪れています。
これからの時代に備え、医院全体としてどのような取り組みを行うべきか、戦略的に考えることが重要です。
まずはスタッフの意識から変えていく
最初のステップとして必要なのは、スタッフの意識改革です。
「英語が苦手だから無理」と諦めるのではなく、「少しでも伝わるよう努力しよう」という意識を全員が持つこと。これが出発点になります。完璧な英語を話す必要はありません。むしろ、簡単な言葉やジェスチャー、笑顔といった非言語コミュニケーションの方が、安心感を与えることもあります。
その上で、定期的な英会話研修やロールプレイの導入が効果的です。特に、受付スタッフ、歯科衛生士、歯科医師それぞれの役割に応じたフレーズを、実践形式で学ぶことで、実際の現場でスムーズに対応できるようになります。
「予約はいつがいいですか?」「痛みはありますか?」「ここを磨いてください」といった基本的なフレーズを、全スタッフが最低限習得しておくだけでも、対応力は格段に上がります。
医院全体での仕組みづくりが鍵
個人の努力だけに頼るのではなく、医院全体での取り組みも欠かせません。
多言語資料の整備や翻訳アプリの導入はもちろんですが、それに加えて「外国人対応マニュアル」を作成しておくと、非常に便利です。初診時の流れ、料金の説明、治療内容の伝え方などを項目ごとにまとめ、誰でも同じレベルの対応ができるようにしておく。こうすることで、クレームやトラブルを未然に防げますし、新人スタッフの教育にも役立ちます。
また、地域の国際交流団体や外国人コミュニティと連携し、外国人患者さんのニーズを直接聞く機会を設けることも有効です。彼らの視点から見た「わかりにくい点」「不安な点」をフィードバックとして受け取り、医院の改善に生かす。こうした対話が、本当に「外国人に開かれた歯科医院」づくりに直結します。
外国人対応を、医院の強みに変える
中長期的には、外国人対応を医院の強みとして、差別化ポイントにする戦略もあります。
英語ページのある公式サイトの構築、SNSでの多言語情報発信、「外国人対応可能」であることを明示した求人や広告展開など、マーケティングの観点からも効果が期待できます。実際、こうした取り組みを積極的に行っている医院は、地域で「外国人が通いやすい歯科医院」として認知され、口コミで患者さんが増えているケースもあります。
国際化に備えた対応力の強化は、今後の患者層の拡大、地域社会への貢献、そして医院のブランディングにもつながる重要な施策です。「外国人対応を強みに変える」ために、継続的な取り組みを積み重ねていくことが、成功のカギとなります。
最後に――「伝わる」ための努力を、一緒に
「歯科医院指さし英語」というキーワードに検索需要があるということは、それだけ多くの医院が、外国人患者対応に課題を感じているということでもあります。
完璧を目指す必要はありません。でも、少しずつでも「伝わる工夫」を重ねていくこと。スタッフ全員で意識を共有し、医院として取り組んでいくこと。それが、患者さんの安心と信頼につながり、ひいては医院の成長にもつながっていきます。
これからの時代に求められる歯科医院の姿を、考えていきましょう。
外国人患者対応の全体像については、
「厚労省実態調査から読み解く、歯科医院における外国人患者受入の現状と課題」
でも詳しく解説しています。