スタッフ数が10人以下の小規模歯科医院では、大型歯科医院に比べて、不平や不満が表面化しやすく、また一気に広がりやすい傾向があると感じています。

顧問先の歯科医院の先生から、ある話を聞きました。友人の歯科医院で、ある日突然「院長に話があります」とスタッフから呼び出され、全スタッフが揃った場で院長に対する不平・不満が一斉に伝えられたそうです。その結果、スタッフ全員が退職するという、非常に衝撃的な出来事に発展しました。

実際の原因は詳しく分かりませんが、私はこの話を聞いて、「そこに至る前に取れた対策はあったのではないか」と強く感じました。

大型歯科医院では、スタッフ数が50人規模になると組織図が整備され、部署ごとの管理体制が確立されます。そのため、スタッフが院長に直接、直談判のような形で不満をぶつけるケースは起こりにくくなります。

一方で、小規模歯科医院では、院長がスタッフ全員のマネジメントを直接担う必要があります。ここが、小規模医院において最も難しいポイントだと感じています。

スタッフ全員が望む「理想の歯科医院」をつくることは、現実的ではありません。しかし、スタッフが不満を溜め込み、ある日突然爆発するような状況を防ぐための“事前の策”は存在します。


不満を「まとめて爆発させない」仕組み

小規模歯科医院で最も危険なのは、不満がスタッフ同士の間だけで共有され、院長だけが何も知らない状態です。日常的に顔を合わせるスタッフ同士では不満が蓄積されやすく、院長には届かないまま一気に噴き出すことがあります。

その予防として重要なのは、定期的に一対一で話ができる場を持つことです。内容は愚痴でも構いません。不満を小出しにし、分散させることが、問題を大きくしない最大のポイントです。


「院長に言っても無駄」と思わせないこと

過去に勇気を出して意見を伝えたものの、変わらなかった、忙しそうで話しかけにくかった、正論で返されて終わった——こうした経験が積み重なると、スタッフは次第に本音を言わなくなります。

重要なのは、その場で解決できるかどうかではなく、「話を聞いてもらえた」「受け止めてもらえた」と感じられることです。すぐに答えを出さず、否定せず、後日必ず何らかのリアクションを返す。この積み重ねが、スタッフの諦めを防ぎます。


「全員が同じ方向を向いている」という思い込みを手放す

小規模医院ほど、「チームワークが良い」「全員が同じ方向を向いている」という意識を持ちやすいものです。しかし、スタッフ一人ひとり、仕事に求めるものや価値観、将来像は異なります。

全員が同じ考えであるべき、という前提に立つと、ズレを感じたスタッフは我慢する側に回り、やがて不満を溜め込むことになります。


相談先が院長しかない状態をつくらない

小規模歯科医院では、相談相手が院長一人に集中しがちです。しかし、それはスタッフにとっても院長にとっても大きな負担になります。

第三者の立場で話を聞く存在がいるだけで、感情の整理や言語化が進み、院長へ伝える際の“翻訳役”にもなります。問題が起きてからではなく、起きる前にこうした存在を持つことが重要です。


辞める直前だけでなく、その前のサインに目を向ける

全員退職に至るケースの多くは、退職の相談を受けたときが、初めて本音を聞いた、という状況です。しかし実際には、その半年前、もっと前からサインは出ています。

返事が短くなる、雑談に入らなくなる、院長と目を合わせなくなる。こうした変化を「忙しいだけ」と見過ごさないことが、最大の予防策になります。


おわりに

小規模歯科医院に必要なのは、「問題を起こさない仕組み」ではなく、「問題が大きくならない関係性」だと感じています。

問題が起きてから外部に相談するのではなく、起きないように、あるいは小さなうちに対処できるように、間に入る存在を持つこと。それが、小規模歯科医院にとっての大切なリスクマネジメントの一つではないでしょうか。