はじめに

先日、顧問先の歯科医院の院長先生から、「ちょっとまた来たのよ、見て。」と手渡されたのは、フリーランスの歯科衛生士からの営業の手紙でした。

実はこの手の手紙、この歯科医院にもう何通も届いているのですが、内容を見るとこれまでとは少し様子が違っていました。今日はその変化と、歯科医院側の本音についてお話ししたいと思います。

進化する営業手紙の内容

以前の営業手紙

以前までのフリーランス歯科衛生士からの営業手紙は、比較的シンプルなものでした。

  • 業務内容:歯科衛生士としての施術のみ
  • 賃金形態:時給換算(交通費は別途)
  • 勤務条件:出勤曜日と時間については要相談

このように、歯科衛生士本来の業務に特化した提案が中心でした。

最近の営業手紙にみられる変化とは

ところが、今回手渡された手紙には、これまでとは異なる提案が盛り込まれていました。

  • 歯科衛生士としての施術業務はもちろん
  • 求人活動のお手伝い
  • 院長先生に代わってWEBサイトの運営
  • チラシや医院新聞の作成
  • SNS投稿

つまり、単なる施術スタッフとしてではなく、「マルチに活躍できる人材」としてアピールする内容にバージョンアップしていたのです。

フリーランス歯科衛生士を生み出すビジネスとは

セミナーで学ぶ営業手法

ある歯科衛生士さんから聞いた興味深い話があります。

フリーランス歯科衛生士として自由に稼ぐ」という魅力的なキャッチコピーに惹かれてセミナーに参加したところ、そこでは具体的な営業方法を教えてもらったと言います。

セミナーで教えられる内容は

  • 自分のプロフィールの効果的な書き方
  • プロフィールを印刷する紙の質
  • 手紙は必ず手書きで作成すること
  • 手紙の型(テンプレート)に沿って書くこと
  • 最低100医院に投函すること

フリーランスとして働きたい歯科衛生士たちは、このようなセミナーで学んだノウハウをもとに、自分を売り込んでいました。

広がるフリーランスという働き方

ひとつの歯科医院に定着せず、複数の医院を掛け持ちしたり、短期間で働き先を変えたりするフリーランスという働き方は、ここ数年で歯科業界にも随分浸透してきたように感じます。

働く側にとっては

  • 自分のライフスタイルに合わせて働ける
  • 複数の医院で経験を積める
  • 時給が高めに設定できる

といったメリットがあり、魅力的に映るのでしょう。

歯科医院側の困惑と本音

頻繁に届く営業レター

休み明けにポストを確認すると、同時に3通もの営業レターが届いていたという歯科医院も珍しくありません。

しかも内容は似たり寄ったり。おそらく同じようなセミナーで、同じような型を学んだ歯科衛生士たちが、同じような文面で営業をかけているように思います。

先生方も「またか…」と困惑されている様子でした。

歯科医院がフリーランス雇用に慎重な理由

このような手紙が届いている歯科医院の多くでは、フリーランス歯科衛生士との雇い入れは考えていないというのが本音でした。

その理由としては

  1. チーム医療の難しさ
    • 歯科医療は医師、歯科衛生士、歯科助手などがチームで連携して行うもの
    • 定期的に勤務しないスタッフとの連携は難しい
    • 患者さんとの継続的な信頼関係を築きにくい
  2. 教育・指導のコスト
    • 医院ごとに診療方針や使用機材、手順が異なる
    • 短期間のスタッフに毎回教育するコストが高い
  3. 責任の所在が不明確
    • トラブルが起きた際の責任の所在が曖昧になりやすい
    • 長期的な患者フォローが難しい
  4. 組織文化の醸成が困難
    • 医院の理念や文化を共有しにくい
    • スタッフ間の一体感が生まれにくい

一方で、フリーランス歯科衛生士と契約をして良い経験をされた先生の声も

実際にフリーランス歯科衛生士と契約した先生からは、こんな声もありました。

「たまたま良い方だったから、ちょっとお願いしてみたんだよ。そしたらよくやってくれて助かった。ただ時給が高くてね(汗)」

このように、フリーランス歯科衛生士の活用は難しいという先生がいる一方で、良かったという先生もいらっしゃいます。つまり、人と医院の状況によって評価が大きく分かれるのが実情のようです。

フリーランス歯科衛生士の報酬相場

2026年現在の報酬水準

フリーランス歯科衛生士の報酬(時給)は、一般的なパート・アルバイトよりも高い水準にあります。働き方や専門性によって異なりますが、主な相場は以下の通りです。

1. 報酬(時給・日給)の相場

時給換算:2,000円〜5,000円

  • 一般的な歯科衛生士のパート時給(都内平均 約1,600円〜1,800円前後)と比較して、明らかに高めに設定されています
  • 専門性やスキルによって、この範囲内で大きく変動します

日給換算:20,000円〜40,000円

  • 1日単位での契約の場合、拘束時間や担当患者数に応じてこの範囲で決まることが一般的です
  • 8時間勤務と仮定すると、時給換算で2,500円〜5,000円に相当します

2. 時給が決まる要因

報酬額は、主に以下の3つの要素によって変動します。

専門スキル

  • インプラントのアシスタントや高度なSRP技術、ホワイトニングの専門知識など、医院が求める「プラスアルファ」の技術がある場合、時給4,000円を超えるケースもあります
  • 特定の治療分野に特化した経験や資格を持っている場合、さらに高額になることも

教育・コンサルティング能力

  • 診療だけでなく、自院のスタッフへの技術指導や接遇指導、システム改善を請け負う場合は、教育費として時給が跳ね上がります
  • この場合、時給5,000円以上になることも珍しくありません

自費診療の歩合(インセンティブ)

  • 担当した自費クリーニングやホワイトニングの売上に対し、数%〜数十%が報酬に加算される契約もあります
  • 基本時給に加えて歩合が発生するため、実質的な時給がさらに高くなります

コスト面での課題

先ほどの院長先生の「ただ時給が高くてね(汗)」という言葉が象徴するように、フリーランス歯科衛生士の活用には、人件費の高騰という課題があります。

正規雇用のパート歯科衛生士と比較すると、1.5倍〜3倍近い時給を支払うことになるため、経営的な負担は決して小さくありません。

ただし、以下のような場合には、コストに見合う価値があると判断する医院もあります。

  • 急な欠員で一時的に人手が必要な場合
  • 特定の専門技術を持つ人材が必要な場合
  • 繁忙期のみスポットで補充したい場合
  • スタッフ教育のために外部の専門家を招きたい場合

小規模歯科医院が抱える人材確保の課題

求人難の現実

小規模歯科医院では、歯科衛生士の確保が非常に難しいのが現実です。

  • 求人を出しても応募が来ない
  • 求人を出しっぱなしになっている医院が大多数
  • 人材不足で診療に支障が出ることも

このような状況が、フリーランス歯科衛生士の営業活動を活発化させる土壌となっています。

求人を出すと、求人会社からの営業も増える

  • フリーランス歯科衛生士からの営業手紙
  • 求人会社からの営業電話
  • 人材紹介会社からのアプローチ

人材を求めている医院に対して、求人情報が掲載されれば、これらの営業が集中するのは当然の流れともいえます。

歯科医院に本当に必要な人材とは

長期的な視点での雇用

多くの歯科医院が求めているのは、単に「手が足りない時だけ来てくれる人」ではないように感じます。

  • 医院の理念や方針を理解し、共感してくれる人
  • 患者さんと継続的な信頼関係を築ける人
  • チームの一員として協力し合える人
  • 長期的に成長していける人

このような人材を確保し、育成していくことこそが、歯科医院の本当の課題なのだと思います。

まとめ:フリーランス歯科衛生士とどう向き合うか

フリーランス歯科衛生士からの営業の手紙は、歯科業界における働き方の多様化と、人材確保の困難さという二つの現実を映し出しているように思います。

フリーランス歯科衛生士の活用については、まだまだ賛否両論があるのが実情です。コスト面での負担や、チーム医療の観点からの課題がある一方で、適切な人材と出会えた場合には、医院にとって大きな助けとなることもあると思います。

重要なのは、自院の状況や課題に応じて、柔軟に選択肢を検討することなのかもしれません。

  • 長期的に安定した診療体制を築くなら、正規雇用での人材確保・育成が基本
  • 一時的な人手不足や専門技術の導入なら、フリーランスの活用も選択肢の一つ
  • いずれの場合も、適切な報酬と明確な契約内容の設定が不可欠

質の高い歯科医療を継続的に提供するためには、やはり安定した雇用関係のもとで、チームとして協力し合える体制が理想的と考える先生が多いように感じます。