かつて、新卒社員の早期離職は「七五三(3年以内に中卒7割・高卒5割・大卒3割が離職)」と呼ばれ、特に中卒・高卒の離職率の高さが社会問題とされてきました。しかし近年、この構図に変化が見られています。

中卒・高卒の離職率は改善傾向にある一方で、大卒の離職率は上昇傾向にあります。厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」を見ても、入社後3年以内に離職する割合は依然として高水準で推移していて、企業規模や業種を問わず、人材定着は深刻な経営課題となっています。

歯科医院においてもこの傾向は例外ではありません。特に若手歯科衛生士・歯科助手・受付スタッフの早期離職は、院内の雰囲気や診療体制、患者満足度にまで影響を及ぼします。

では、なぜ新卒の早期離職は起き続けているのでしょうか。その背景を整理してみましょう。


新卒社員が早期離職に至る主な要因

1.採用時のミスマッチ

最も多く挙げられる要因が「採用時のミスマッチ」です。

・企業(医院)側の情報発信が不足している ・仕事内容を正しくイメージできていない ・職場の雰囲気や人間関係が見えない

こうした状態のまま入社すると、 「思っていた仕事と違った」 「聞いていた話と現実が違う」 というギャップが生まれやすくなります。

特に近年は、オンライン説明会や求人サイト、SNSを通じた採用が増え、対面での情報収集機会が減少しています。その結果、実際の現場の空気感や細かな業務内容が伝わりにくくなっているのが現状です。

歯科医院でも、 「教育体制が整っているつもりだった」 「忙しさは理解してもらえていると思っていた」 という認識のズレが、入社後に表面化するケースは少なくありません。


2.キャリア観の変化

かつては「一社で長く働くこと」が安定や成功の象徴でした。しかし現在は、価値観が大きく変化しています。

・スキルアップできるか ・自分が成長している実感があるか ・やりがいや意味を感じられるか

こうした点を重視し、「合わなければ転職する」という選択肢がごく自然なものになりました。

若い世代ほど、我慢することよりも「自分らしく働くこと」を優先する傾向があります。そのため、

・指示の意図が分からない ・評価基準が曖昧 ・将来像が描けない

と感じた瞬間に、離職を考え始めるケースも珍しくありません。

歯科医院においても、 「この医院で何が身につくのか」 「数年後、自分はどう成長しているのか」 を言語化できていないと、スタッフは不安を抱えやすくなります。


3.職場環境・人間関係の課題

人間関係や職場環境は、離職理由として常に上位に挙げられます。

近年はリモートワークの浸透や業務の効率化により、コミュニケーションが最小限になりがちです。その結果、

・相談できる相手がいない ・自分だけが分からない気がする ・孤立していると感じる

といった心理的な孤独感を抱えてしまうケースが増えています。

歯科医院では、忙しさゆえに「見て覚える」「そのうち慣れる」といった文化が残っていることも多く、新人が不安を抱えたまま業務を続けてしまうことがあります。


いま、歯科医院に求められる人材定着の取り組み

こうした背景を踏まえると、単に「人を採る」だけでは不十分で、安心して働き続けられる環境づくりが不可欠です。

メンター制度の導入

年齢や立場が近い先輩スタッフが、新人の相談役となるメンター制度は、心理的な安心感を生み出します。

・業務上の小さな疑問 ・人には言いづらい不安 ・失敗したときのフォロー

これらを受け止める存在がいるだけで、離職リスクは大きく下がります。

定期的な面談の実施

「何かあったら言ってね」ではなく、定期的に話す場を設けることが重要です。

・業務の理解度 ・困っていること ・将来の希望

を言葉にする機会をつくることで、問題が深刻化する前に対処できます。


ディー・プラス・エス株式会社が考える“人が定着する医院づくり”

ディー・プラス・エス株式会社では、歯科医院の採用・育成・定着を「点」ではなく「線」で捉えています。

・採用段階での情報発信の工夫 ・入職後の教育・フォロー体制 ・スタッフが安心して成長できる環境設計

これらを一貫して整えることで、初めて“選ばれ続ける医院”が実現すると考えています。

新卒の早期離職は、個人の問題ではなく、仕組みと環境の問題であることがほとんどです。

人が辞めにくい医院は、結果として ・患者満足度が高まり ・院内の雰囲気が安定し ・医院全体の成長につながります。

人材不足が続く今だからこそ、「採用後」を見据えた医院づくりに、目を向けてみてはいかがでしょうか。