スタッフの入れ替わりが少なくない歯科医院では、中途採用によって即戦力を確保することが重要な戦略の一つです。しかし、柔軟な対応が求められる一方で、採用にまつわる法的・倫理的リスクを見落としてしまうと、医院の信頼や運営に悪影響を及ぼしかねません。

とくに、採用マニュアルやガイドラインが整備されていない小規模歯科医院では、面接時や採用後に“うっかりNG”を犯してしまい、トラブルに発展するケースも見られます。本記事では、歯科医院の院長先生や採用を担当するスタッフが押さえておくべき注意点を、採用プロセスに沿って解説します。


1. 面接で聞いてはいけないNG質問

スタッフとの信頼関係を築くために、人物像を深く知ろうとする姿勢は大切ですが、ついプライベートな情報に踏み込んでしまうと法的リスクが生じます。以下のような質問は職業安定法や男女雇用機会均等法で制限・禁止されており、違反すると行政指導や罰則の対象となることがあります。

禁止されている主な質問例

  • 本籍地や出生地:「どちらのご出身ですか?」
  • 家族構成や職業:「ご両親はどんなお仕事を?」
  • 結婚・出産予定:「結婚・出産のご予定はありますか?」
  • 宗教や支持政党:「信仰している宗教はありますか?」

ポイント:院長先生や面接に関わるスタッフには法的知識を周知し、「聞いてはいけない質問リスト」などを事前に共有しておくことが大切です。


2. 前職との関係から生じるトラブル防止策

(1)競業避止義務の確認

競業避止義務とは、退職後一定期間、同業他院での勤務や事業を制限する契約条項のことです。歯科衛生士や歯科助手が前職と競業避止契約を結んでいた場合、それに違反すると損害賠償請求の対象となることがあります。

対策:面接時や内定通知時に、前職との契約内容を確認し、必要に応じて配置転換や業務範囲の調整を検討しましょう。

(2)営業秘密の持ち込み防止

前職で得た診療ノウハウや患者情報、マニュアルなどを無意識に持ち込むことで、不正競争防止法違反となるリスクもあります。

対策

  • 入社時に秘密保持・情報持ち込み禁止の誓約書を取得する。
  • 院内の情報管理ルール(印刷制限、USB制限など)を整備する。
  • 定期的にスタッフ向けの情報管理・セキュリティ研修を行う。

3. 採用後にありがちな“うっかりNG”

  • 前職の資料やノウハウを無断で使用してしまう
  • スタッフ間での不適切な待遇差や評価の不公平
  • 雇用契約書・誓約書を交わさずに勤務を開始させてしまう

対策

  • 雇用契約書、秘密保持契約書、誓約書などの書類を明文化・整備する
  • 入社時オリエンテーションで院内のルールや方針を丁寧に説明する
  • 評価制度の見直しや定期的な面談を通じたフォローアップを実施する

まとめ

リスク注意点対策
面接NG質問家庭・信条・性別などの質問質問リストと面接研修の導入
競業避止義務前職契約による勤務制限書面で確認・業務内容調整
営業秘密前職データの持ち込み誓約書取得・研修・IT統制

中途採用は歯科医院にとって優秀な人材を確保する大きなチャンスですが、採用の場面では法律やモラルに沿った対応が求められます。「知らなかった」「つい聞いてしまった」では済まされないリスクを避けるためにも、採用担当者・院長先生が正しい知識と意識を持ち、安心・安全な採用体制を整えることが重要です。