歯科医院のご相談を受けていると、規模や立地に関係なく、必ずと言っていいほど出てくる悩みがあります。それが「人の問題」です。
先日、ある歯科医院の現場で起きた事例について、院長先生とじっくり話し合う機会がありました。内容は特定の個人や医院を指すものではありませんが、現場では決して珍しくない、人に関わるトラブルです。
現場で関わる中でも、たった一人のスタッフの言動が、院内全体の空気を変えてしまうケースは少なくありません。もしかすると、この記事を読んでいる先生の中にも、今まさに同じような状況に直面されている方がいらっしゃるかもしれません。
一人の違和感は、必ず周囲に伝染する
問題が表面化しているスタッフがいる場合、実はその人だけの問題で終わらないことがほとんどです。
たとえば、こんな変化に心当たりはないでしょうか。
- 受付の雰囲気がピリつく
- スタッフ同士の会話が減る
- 院長や理事長が常にイライラしている
- 「また何か起きるのでは」という空気が漂う
- 他のスタッフが必要以上に気を遣っている
- 休憩室が妙に静かになった
こうした状態は、患者さんにも伝わります。
「最近、なんとなく雰囲気が悪い」
この”なんとなく”が積み重なることが、医院にとって一番のリスクです。患者さんは、治療の技術だけでなく、医院全体の雰囲気で「ここに通い続けたい」と判断します。スタッフ間の小さな緊張感は、確実に診療室の空気に影響します。
なぜ「人の問題」はこれほど悩ましいのか
私たちが多くの医院を見てきた中で感じるのは、人の問題が難しいのは「正解がない」からだということです。
- 注意すると関係が悪化するのではないか
- 辞められたら現場が回らなくなる
- 自分の伝え方が悪いのかもしれない
- 他のスタッフはどう思っているのか
- 本当にその人だけが問題なのか
こうした迷いが、院長先生の判断を鈍らせます。結果として、問題を先送りにしてしまい、気づいたときには状況がさらに悪化している―そんなケースも珍しくありません。
感情的な判断ではなく、段階的に整理するという考え方
とはいえ、現場で問題が起きたとき、すぐに結論を出すことが正解とは限りません。
現在の医療現場においては、「辞めてもらう」という発想自体が現実的ではなく、その意図や雰囲気が相手に伝わってしまうことで、パワハラと受け取られるリスクもあります。
だからこそ必要なのは、感情ではなく、事実とプロセスを丁寧に整理していく視点です。実際、多くの医院では次のような対応を段階的に行っています。
ステップ1:状況を客観的に把握する
まずは「何が問題なのか」を具体的に言語化します。
- いつ、どこで、何が起きたのか
- それによってどんな影響が出ているのか
- 他のスタッフはどう感じているのか
「なんとなく合わない」という曖昧な感覚を、できるだけ具体的な事実に落とし込むことが大切です。
ステップ2:持ち場や役割を一時的に変更する
問題が起きている環境そのものを変えてみることで、状況が改善するケースもあります。たとえば、受付から診療補助へ、チーム編成の見直しなど、本人の適性を見極める機会にもなります。
ステップ3:具体的な事実をもとに問題点を伝える
ここで大切なのは、人格を否定しないことです。「あなたが悪い」ではなく、 「この行動が、医院や周囲にこういう影響を与えている」 という伝え方をする。
たとえば、
- 「遅刻が多い」→「遅刻によって、朝の準備が他のスタッフに負担になっている」
- 「態度が悪い」→「患者さんから『受付の方の対応が冷たい』という声があった」
このように、行動と影響を結びつけて伝えることで、相手も受け止めやすくなります。
ステップ4:評価や賞与に反映させる
改善が見られない場合は、評価制度に反映させることも必要です。ただし、これも感情的な判断ではなく、事前に設定した基準に基づいて行うことが重要です。
ステップ5:改善が見られない場合は書面で記録を残す
始末書や改善計画書など、書面で記録を残すことは、万が一の際の証拠になります。ただし、これは最終手段であり、ここに至るまでに十分なコミュニケーションを取ることが前提です。
院長・理事長が一人で抱え込まない
人の問題は、院長・理事長の心を確実に削ります。
「自分の伝え方が悪いのか」 「我慢すべきなのか」 「他のスタッフはどう思っているのか」
こうした迷いを、一人で抱え続ける必要はありません。
実際、私たちが現場でお手伝いする中で、第三者が入ることで状況が整理されるケースは数多くあります。
- 感情と事実を分けて整理できる
- スタッフ側の本音が見える
- 院長自身の判断軸が明確になる
- 「自分だけが悩んでいるわけではない」という安心感が得られる
特に、スタッフとの面談に第三者が同席することで、院長先生が感情的にならずに済んだり、スタッフ側も素直に話せたりすることがあります。
「辞めさせる」ではなく、「医院を守る」という視点
誤解してほしくないのは、これは「問題のあるスタッフを辞めさせる方法」の話ではない、ということです。
私たちが大切にしているのは、医院全体の健全性を守るという視点です。
- 医院の価値観を壊していないか
- 他スタッフの安心を奪っていないか
- 患者さんに悪影響を与えていないか
この視点だけは、見過ごさないことが大切だと感じています。
一人のスタッフを守ることが、他の真面目に働くスタッフの不公平感を生んでしまっては本末転倒です。院長先生が守るべきは、医院全体であり、そこで働くすべてのスタッフの環境です。
予防という考え方―問題が起きる前にできること
ここまで、問題が起きた後の対応について書いてきましたが、実は「問題が起きにくい環境づくり」も同じくらい重要です。
採用時の見極め
スキルだけでなく、「医院の価値観に合うか」を見る。面接時に具体的なシチュエーションを想定した質問をする。
明確なルールと基準
「なんとなく」ではなく、明文化されたルールがあることで、スタッフも安心して働けます。
定期的な面談
問題が大きくなる前に、小さな違和感を拾い上げる仕組みを持つ。
スタッフ同士の関係性づくり
ミーティングや食事会など、コミュニケーションの機会を意図的につくる。
こうした取り組みは、一見遠回りに見えますが、長期的には医院の安定につながります。
現場目線で思うこと
歯科医院の悩みは、設備でも集患でもなく、最後はやはり「人」に行き着きます。
完璧なスタッフはいません。完璧な院長もいません。ただ、医院としての譲れない価値観は持っておくべきだと思います。
そして、問題が起きたときに、感情ではなく事実をもとに、段階的に対応していく。その積み重ねが、長く安定した医院づくりにつながっていくと、私たちは現場で感じています。
最後に
このような人にまつわる悩みは、決して特別なものではありません。多くの院長先生が、同じように悩み、迷いながら、日々向き合っています。
現場で起きている事実を丁寧に整理し、感情と切り分けながら、次の一手を考えていく。時には、第三者の力を借りながら、医院全体を守る判断をしていく。
もし今、人の問題で悩んでいる院長先生がいらっしゃいましたら、一度立ち止まって、この記事の内容を参考にしていただければ幸いです。私たちディー・プラス・エスも、そんな院長先生の力になれればと思っています。