「あなたの代わりはいくらでもいる」——その一言が、歯科衛生士を追い詰めた
先日、歯科衛生士のA子さんと個人面談を行った際に、彼女の友人の話が強く印象に残っています。
それは、A子さんの友人(歯科衛生士歴4年目)が職場で心ない言葉をかけられ、ついには「適応障害」と診断されてしまったという内容でした。
少しずつ慣れてきた頃に
A子さんの友人は、新卒で3年勤めた歯科医院を退職後、転職して新たな医院に入職しました。最初は環境に慣れるのに苦労したものの、徐々に業務にも周囲のスタッフにも慣れ、仕事にやりがいを感じ始めていたといいます。
そんな矢先、ある先輩歯科衛生士から心ない言葉を投げかけられたそうです。
「あなたがいなくても、代わりはいくらでもいるから」
その一言がきっかけとなり、日々の業務中にもチクチクと嫌味を言われるようになったといいます。特に理由もなく、あからさまな態度で冷たく接されたり、無視されるような場面もあったとのこと。
彼女はある日、勇気を出して「私、何かしてしまったでしょうか?」と聞いてみたそうです。ところが、その後からさらに言葉のトーンは攻撃的になり、職場での居場所がますますなくなっていったと言います。
心身の限界と「適応障害」の診断
ある日を境に、出勤前になると体調が悪くなり、頭痛や吐き気などの症状が現れるようになりました。精神的な負担が身体症状として現れ、ついには仕事に行ける状態ではなくなったとのことです。
病院で相談したところ、診療内科の受診を勧められ、「適応障害」と診断されました。現在は休職中ですが、復職後の職場に戻ることが怖くてたまらない、と話しているそうです。
歯科医院で起きる「見えづらいハラスメント」
このような話は、決して珍しいものではありません。
実際に私自身、以前勤務していた医院でも、理由ははっきり語られないまま退職していったスタッフが何人もいました。
後になって聞いた話によると、先輩スタッフからの厳しい言葉や無視、陰口といった「優越的な立場を利用した言動」が原因だったとのことです。
歯科医院は小規模な組織が多く、人間関係が密になりやすいため、こういった“目に見えにくいハラスメント”が生まれやすい環境とも言えます。
言葉の力と、その重さ
「あなたがいなくても大丈夫」「代わりなんていくらでもいる」
その一言は、聞き手にとっては「あなたはここに必要ない人間だ」と告げているのと同じ。
これはまさに、存在を否定する言葉です。
言葉というのは、時に想像以上に人を傷つけます。
特に、真面目で責任感の強い人ほど、そうした言葉に深く傷つき、自分を責め、心身のバランスを崩してしまうのです。
ハラスメントは“気のせい”ではない
パワハラやモラハラの境界線は曖昧に見えるかもしれませんが、
大切なのは、「本人がどう感じているか」です。
- つらい
- 恐い
- 行きたくない
そう思っているなら、それは十分に「問題がある」ということです。
そして、その声を“我慢”や“甘え”と決めつけずに、誰かがきちんと受け止めてあげることが必要です。
医院側に求められる姿勢とは
院長先生やマネジメントを担う立場の方には、ぜひ以下の点を意識していただきたいと思います。
- スタッフの声に耳を傾ける機会を意識的につくること
- 「報告・連絡・相談」がしやすい雰囲気づくりを行うこと
- ハラスメントに関する“共通認識”をチーム内で共有すること
- 必要であれば、外部のサポートを取り入れること
スタッフ同士の小さなトラブルが、大きな離職・採用コスト・患者満足度の低下に直結する時代です。
何より、働く人が心身の健康を損なってまで続ける職場であってはならないと思います。
ディー・プラス・エス株式会社では、歯科医院内でのスタッフ面談のサポートや、第三者としての個人面談の実施も行っております。
院長先生には話しづらいような内容も、外部だからこそ拾える声があります。
スタッフの本音や職場の改善点を把握する一つの手段として、ご活用いただければと思います。
最後に
A子さんの友人は、休職を経て復帰する予定だそうですが、心に深い傷を負っています。
こうした事例を「たまたまの個人の話」で終わらせずに、業界全体の課題として捉えることが大切ではないでしょうか。
今回、この話をしてくれたA子さんも、他の歯科医院で働くのが怖くなりましたと言っていました。
医院で働く誰もが、「ここで働けてよかった」と思える環境づくりに向けて、
小さな一歩でも、今できることから始めていきたいものです。
合わせて読みたい
実際にあったパワハラの事例をもとに、歯科医院としてどのように対応すべきかを解説しています。
スタッフの離職を防ぎ、働きやすい職場環境をつくるためのヒントにぜひご活用ください。