ある歯科医院で実際にあった出来事です。

「受付スタッフ募集」の求人を見て応募してきた、ある女性。
面接時に医院側から「歯科助手としての勤務もお願いできませんか?」とお話しすると、「未経験ですが、大丈夫です」と前向きな返事をしてくれました。

履歴書にも特に問題はなく、前職では接客業を経験されていたこともあり、受け答えも明るく丁寧。
「まずはやってみましょう」と院長も納得の上で採用が決まりました。

初日は緊張している様子もありましたが、スタッフの指示に素直に耳を傾け、診療の合間にもメモを取るなど、真面目に取り組む姿が印象的でした。
スタッフも「このまま育ってくれたら」と期待を寄せていたほどです。

しかし――

入社から1週間が経った頃、彼女から声をかけられました。

「少し、お話があるのですが…」

そう切り出した彼女の表情は、どこか迷いを含んでいるようで、でも、どこか決意も感じさせるものでした。

「やっぱり、私には合わないかもしれません」

驚きながらも、「少しずつ慣れていけば大丈夫です。無理のない範囲でやっていきましょう」と声をかけたのですが、すでに彼女の気持ちは固まっているようでした。

翌週には退職となり、その際にぽつりとこぼした言葉がありました。

「受付での仕事がしたかったんです」

その一言には、
・求人票とのミスマッチ
・面接時のすれ違い
・そして、未経験者にとっての“歯科助手”という仕事のハードルの高さ

──さまざまな課題が詰まっていました。

採用が決まった時点で「一安心」と思いたいところですが、
本当に大切なのは、入社してからどう支えていくか。

ミスマッチを防ぐために、どこまで事前に伝えられるか。
そして、未経験者が戸惑わないよう、最初の1週間・1ヶ月をどうフォローできるか。

今回の経験は、「採用のゴールは“入社”ではなく、“定着”である」ということを改めて実感させてくれました。

この出来事から見えてきた“3つの課題”

この出来事を振り返ってみると、いくつかの課題が浮かび上がります。

① 求人票と実際の業務内容のミスマッチ

「受付業務のみ」と思って応募した求職者にとって、診療補助は想定外です。
面接時の説明で了承を得たとしても、「実際にやってみる」と感覚が違うこともあります。このミスマッチを防ぐためにも、受付以外に診療補助をお願いする場合はある程度、仕事の内容を伝えてた上での意思確認が必要だと思います。

② 面接での確認の難しさ

「未経験でも大丈夫です」と言われると、つい安心してしまいがちです。
でもその“OK”が、実際の業務内容をどこまで理解した上でのものかは分かりません。応募者がどのような認識なのか確認することが大事だと思います。

③ 未経験者にとっての“歯科助手の壁”

器具名や診療の流れ、滅菌業務など──歯科助手の仕事は、想像以上に専門性が高く、覚えることも多いものです。
未経験者にとっては、かなりのプレッシャーになります。業務内容をどのように覚えていくのか、学ぶ期間やその流れを教育に入る前に伝えた方がスタッフも納得して仕事を覚えていけます。

入社してからが、支援のスタート

採用が決まった瞬間にホッとする気持ちは分かりますが、「入社したから大丈夫」ではありません。入社してからしっかりサポートすることで、モチベーションが維持されます。

・どこまでが“受付業務”で
・どこからが“診療補助”なのか
・どんなサポートが必要なのか

明確な説明と、初期段階の丁寧なフォローが、結果として“定着”につながります。