~「計画的付与制度」を活用した、働きやすい職場づくり~
「スタッフが急に休んで診療が回らない」「有給休暇を取りづらい雰囲気がある」「5日間の取得義務って、どう対応すればいいの?」
歯科医院の先生方から、こんな声をよく耳にします。特にスタッフ数が限られている小規模な歯科医院では、有給休暇の管理が大きな悩みになっているのではないでしょうか。
実際、厚生労働省のデータでも、医療・福祉分野の有給休暇取得率は他業種に比べて低め。特に歯科医院のような現場では、スタッフ1人が休むだけでも診療に大きな影響を与えるため、「有給休暇はあっても取れない」状況が生まれがちです。
法改正により「年5日取得」が義務化
2019年4月から施行された働き方改革関連法により、年10日以上の有給休暇が付与されるスタッフに対しては、年5日を必ず取得させることが義務付けられました。このルールはもちろん歯科医院にも適用されます。
違反した場合、1人につき最大30万円の罰金が科される可能性もあり、対応は急務です。
一方で、歯科医院では継続的な治療や定期メンテナンスが多く、担当衛生士の急なお休みは、患者さんの満足度にも直結する場合があります。
「スタッフが休みやすく」「診療の質も下げない」そんな両立を図る手段として、今注目されているのが 有給休暇の『計画的付与制度』 です。
計画的付与制度とは?
「計画的付与制度」とは、スタッフの有給休暇のうち、5日を超える分について医院側が取得日をあらかじめ指定できるという制度です。
この制度を導入するには、スタッフ代表との「労使協定」を書面で締結する必要があります。
たとえば、年間10日の有給がある場合、そのうち5日分は本人の希望で自由に取得してもらい、残りの5日を、医院の診療スケジュールに合わせて計画的に取得日を割り当てることができます。
年末年始やGWなどの長期休診期間にあてたり、閑散期に集中的に取得させたりすることで、診療の安定を確保しながら有給消化が可能になります。
制度導入のメリット
① 医院運営の効率化と人件費の最適化
計画的に人員配置を調整できるため、無駄な人件費を抑えつつ、必要なタイミングで人手を確保できます。
② 法令遵守の確実な実現
スタッフごとの取得状況を管理しやすくなり、年5日の有給取得義務にも対応しやすくなります。労基署の調査時にも安心です。
③ 患者さんへの影響を最小限に
突発的な休みによる予約キャンセルや混乱が減ることで、患者さんにも「きちんと診てもらえる」という安心感を与えられます。
④ スタッフの満足度・定着率アップ
制度を活用して公平に休みを取れる環境をつくることで、「休みたいけれど言い出せない」ストレスが軽減され、職場の雰囲気も改善します。
制度導入時に気をつけたいポイント
制度を導入する際、最も大切なのはスタッフへの丁寧な説明と合意形成です。
かつて私が関わった歯科医院では、「有給が10日あると聞いていたのに、自分で自由に取れるのは5日だけなの?」と不満が出たケースもありました。
制度の趣旨をきちんと説明しないまま進めてしまうと、スタッフとの信頼関係にヒビが入るリスクもあります。
ミーティングなどの場で、「なぜこの制度を取り入れるのか」「スタッフにどんなメリットがあるのか」をしっかり伝えて納得してもらえるように、きちんと説明することが大切です。
導入ステップの流れ
STEP 1:就業規則の確認と整備
計画的付与制度に関する記載があるかを確認し、なければ追記します。
STEP 2:労使協定の作成
対象日数、実施期間、対象外条件などを記載した協定書を作成します。
STEP 3:労使協定の締結
スタッフの過半数を代表する者を選出し、書面で締結。制度が正式に運用可能になります。
有給休暇の取り方も「戦略」に変わる
有給休暇の計画的付与制度は、単なる労務管理の手段ではありません。
人材が定着しやすい職場づくり、患者満足度の向上、医院経営の安定化につながる、戦略的な仕組みです。
人手不足が慢性化する歯科業界だからこそ、「働きやすい医院」はスタッフに選ばれる時代。
ぜひ、自院の診療体制やスタッフ構成に合わせて、計画的付与制度を上手に活用してみてはいかがでしょうか。