スタッフの定着率や採用力を高める上で、退職金制度の整備はますます重要になっています。
「これから長く働ける職場なのか」は、求職者にとって大切な判断軸。特に優秀な人材ほど、勤務先の福利厚生や将来設計まで見て応募しています。
今回は、歯科医院でも導入できる主な退職金制度と、それぞれの特徴を整理しました。
●よくある運用パターン
個別対応型(多くの小規模医院が該当)
- 勤続10年以上のスタッフに寸志程度を支給
- 院長の裁量で金額を決定(基準はない)
- 就業規則や契約書に明記されていないことも多く、将来トラブルのもとになる可能性あり
制度設計型(制度的に導入)
- 社会保険や税制上のメリットを活かして、共済や企業年金制度を活用
- 明文化された基準があるため、スタッフにも安心感を与えられる
●代表的な退職金制度と活用ポイント
歯科医院で導入されることが多いのが、以下の2制度です。
◆中退共(中小企業退職金共済)
✔ 導入しやすく、シンプルな制度
厚生労働省が管轄する公的制度で、掛金を毎月支払うことで退職金を準備できます。
- 掛金:5,000円〜30,000円/人(毎月)
- 対象:スタッフ(常勤/一定条件あり)
- 掛金は全額、法人の経費として計上可
- 掛金月数や金額に応じて、退職時にまとまった金額が支払われる
- 複数医院を経由しても、通算可能(転職時も安心)
こんな医院におすすめ
→ スタッフの退職金を最低限でも制度化しておきたい
→ 公的制度を使って、簡単に始めたい
→ 長く働くほど恩恵がある仕組みにしたい
◆はぐくみ企業年金
✔ 福利厚生の「魅力」を打ち出す制度
一般社団法人が運営する私的年金制度。掛金や給付内容を医院側で柔軟に設計できるのが特長です。
- 月々の掛金は5,000円〜(医院が設定)
- 掛金は法人経費として処理可能
- 掛金は専用の年金口座に積立
- スタッフが退職または老後に年金として受け取れる
- 「積立金の見える化」など、職員満足度向上にも
こんな医院におすすめ
→ スタッフの定着や採用力を高めたい
→ 福利厚生に「目に見える魅力」を出したい
→ 柔軟でオリジナル性のある制度を設計したい
◆小規模企業共済(※院長個人向け)
✔ 院長ご自身の将来に備える制度
- 掛金:1,000円〜70,000円/月(全額所得控除)
- 廃業・退任時に「退職金」として受け取り可
- 掛金の増減や途中解約も可能
- 資金繰りに困った際には貸付制度もあり
※スタッフ向けではありませんが、院長ご自身の将来に備えて併用されるケースが多くあります。
まとめ
退職金制度は、単なる「お金の準備」ではなく、医院の将来を形作る仕組みのひとつです。
働くスタッフが「ここでずっと働きたい」と思える環境をつくることは、医院経営の安定にも直結します。
まずは、制度の導入有無ではなく、「医院として、どんな姿勢を持っているか」が問われる時代でもあります。
制度を整えることが、歯科医院の信頼を築く第一歩です。