「大丈夫?」という言葉が、心を追い詰めてしまうとき
歯科医院スタッフの負担は、忙しさや人手不足の中で見えにくくなりがちです。
特に「大丈夫?」という何気ない言葉が、スタッフの心を追い詰めてしまうケースもあります。
「大丈夫?」「大丈夫ですか?」「無理しないでください」
最近、顔を合わせるたびにそんな言葉をかけられるようになり、胸がギュッと締めつけられる——。
これは、私が以前勤務していた法人歯科医院のスタッフから実際に受けた相談です。
周囲の優しさが、プレッシャーになる
その医院で働くAさんは、昨年末から強い負担を感じていました。
12月にかけて複数のスタッフが退職し、
- 引き継ぎ業務
- 退職者が残した仕事
- 日常業務のしわ寄せ
これらが一気にAさん一人に集中してしまったのです。
当然、周囲のスタッフや院長も異変に気づきます。
「大丈夫?」
「無理しないでくださいね」
声をかける側は、純粋な気遣いのつもりでした。
しかしAさんにとって、その言葉は次第に重荷になっていきました。
「やらなきゃ」という気持ちの中で
Aさんはこう話してくれました。
引き継ぎも多いし、仕事量が増えて大変なのは事実です。
でも、やらなきゃいけないし、とりあえず目の前のことを頑張ろうと思って仕事しています。
Aさん自身も「やらなきゃ」と自分に強いプレッシャーをかけている状態でした。
その中で繰り返される「大丈夫?」という言葉が、
“心配”ではなく“期待”や“我慢の強要”のように感じてしまうようになっていたのです。
Aさん自身も、後になってこう振り返っていました。
もしかしたら、『大丈夫?』って言葉が、
自分をさらに追い込んでいたのかもしれません。
本音を言えない職場の空気
周囲のスタッフは、決してAさんを責めていません。
むしろ、気にかけていました。
それでもAさんは、本音を誰にも話せませんでした。
- 院長から「大丈夫?」と聞かれれば「はい、大丈夫です」と答えるしかない
- 他のスタッフからも「Aさん、大丈夫ですか?」と聞かれ、笑顔で「大丈夫だよ」と返す
そして、こんな行動も増えていきました。
お昼も、みんなと食べるとまた『大丈夫?』って聞かれるのが嫌で、
一人で食べるようになりました。
周囲から見れば「皆が気にかけている職場」
しかし本人の心は、静かにすり減っていっていたのです。
「大丈夫?」ではなく、具体的な問いかけを
このケースで大切なのは、
気遣いの言葉そのものではなく、“質問の質”です。
例えば、
- 「引き継ぎの仕事、今どこまで進んでいますか?」
- 「まだ終わっていない作業はありますか?」
- 「今抱えている仕事、一度一緒に整理しませんか?」
このように具体的に聞かれることで、初めて相談できる人もいます。
実際に、
- 今持っている業務を書き出す
- 「できる」「できない」で仕分ける
- 他のスタッフに分担する
こうした対応ができていれば、Aさんの負担は確実に軽減できたはずです。
大切なスタッフを守るために
もしAさんが、医院にとって大切な存在なのであれば、
「大丈夫?」と聞くだけで終わらせるのではなく、
今どんな状況なのかを“一緒に確認すること”が必要です。
善意だけでは、人は守れません。
このまま何も変わらなければ、
Aさんの心は、さらにすり減っていくことになります。
歯科医院というチーム医療の現場だからこそ、
誰か一人に負担が集中していないかを、具体的に見える化すること。
それが、スタッフが安心して働き続けられる医院づくりにつながるのではないでしょうか。
※本コラムは、実際に寄せられた相談をもとに、個人や医院が特定されないよう配慮して構成しています。