小規模歯科医院の院長先生から、こんなご相談をいただきました。
「歯科衛生士と歯科助手の関係がうまくいっていなくて…」
実はこれは、決して珍しいケースではありません。
今回は、実際にあった小規模歯科医院での事例をもとに、
スタッフ間の関係性をどう立て直していくか、考えてみたいと思います。
事例:歯科衛生士Aさんと歯科助手Bさん
この医院は、院長先生と数名のスタッフで運営している小規模歯科医院。
悩みの中心にいたのは、歯科衛生士Aさんと、歯科助手Bさんでした。
歯科衛生士Aさんの言い分
Aさんは、Bさんに対してこう感じていました。
- 本来、歯科助手として対応できる業務があるはず
- そこをやってもらえないため、自分たちがフォローに回ることになる
- 結果として、歯科衛生士本来の業務に集中できず、負担が増えている
Aさんにとっては、
「なぜ、できるはずのことをやってくれないのか」という不満が積み重なっていたのです。
歯科助手Bさんの言い分
一方で、Bさんはこう話してくれました。
- 自分は無資格者で、医療の専門職ではない
- 年齢的に、新しいことを覚えるのが正直つらい
- 出勤日数が少ないため、教えてもらっても忘れてしまう
- 無資格の自分が医療現場に立つことで、患者さんが不安に思わないか心配
Bさんは、怠けているわけではなく、
「求められていることに応えられないのではないか」という不安を強く抱えていました。
院長先生の葛藤
院長先生は、Bさんのことをとても評価していました。
- 年齢相応の落ち着いた患者対応ができる
- 医院の運営状況を理解してくれている
- 出勤日が不規則でも、不満を言わずに働いてくれる
そのため、
「強く言って辞められてしまったら困る」
という思いから、
Bさんに対してはっきりと伝えられずにいました。
マニュアルを整備しても、うまくいかなかった理由
関係改善のため、
業務マニュアルやチェックシートを作り直し、Bさんに確認を行いました。
しかし、Bさんから返ってきた言葉は、
「これ全部やるのは、正直荷が重いです」
というものでした。
ここに、この問題の本質があります。
問題の本質は「人」ではなく「期待値」
一見すると、
- 相性が悪い
- やる気の差がある
といった人間関係の問題に見えますが、
実際にはそうではありません。
本当の問題は、
「業務の役割・期待値が曖昧なまま共有されていなかったこと」
です。
- 歯科衛生士は「ここまでやってほしい」と思っている
- 歯科助手は「そこまで求められているとは思っていない」
このズレが、少しずつ不満と不安を大きくしていきました。
関係性を改善するために必要だったこと
① 業務を3つに仕分けする
まず必要だったのは、
歯科助手Bさんの業務を次の3つに分けることでした。
- 必ずやってほしい業務
- できたら助かる業務
- やらなくていい業務
マニュアル上は同じ「業務」でも、
Bさんにはすべてが「やらなければならないこと」に見えていたのです。
② 成長を求めず「安定」を求める
Bさんに求めるべきだったのは、
- 新しいことをどんどん覚えること
ではなく、
- 決まったことを、毎回同じようにこなしてもらうこと
でした。
小規模歯科医院では、
全員が万能である必要はありません。
「できることを、確実に」
それだけで、現場は大きく安定します。
③ 歯科衛生士への説明も欠かせない
同時に、歯科衛生士Aさんにも、
次のような説明が必要でした。
「Bさんには、ここまでの業務をお願いすると決めた。
それ以上は求めない。
その分、Aさんには歯科衛生士としての業務に集中してほしい」
重要なのは、
Aさんの不満を否定しないことです。
「我慢して」ではなく、
「仕組みを変える」というメッセージを伝えることがポイントです。
④ 院長先生が“決めたこと”として伝える
このケースで最も重要だったのは、
院長先生自身が言葉にすることでした。
- 誰に、何を、どこまで任せるのか
- それ以上は求めないのか
これを「院長の決定」として明確にすることで、
スタッフは初めて安心して動けるようになります。
それでも難しい場合は「距離を取る」選択も
すべてを話し合っても、
どうしても噛み合わないこともあります。
その場合は、
- 歯科助手は患者対応中心
- 歯科衛生士と直接関わる業務を減らす
など、
物理的・業務的に接点を減らすことも、立派なマネジメントです。
小規模歯科医院だからこそ「仕組み」で守る
スタッフ数が少ない歯科医院では、
一人ひとりの感情が現場に大きく影響します。
だからこそ、
- 人で解決しようとしない
- 気合いや我慢に頼らない
仕組みで支えることが、
スタッフ定着と医院運営を守る近道になります。
もし今、
「うちも似たような状況かもしれない」と感じたら、
一度、業務と役割を見直してみてはいかがでしょうか。