良い人材が定着しないのは、なぜか?

先日、ある顧問先の歯科医院で中途採用から1か月が経過した歯科衛生士さんと面談を行いました。その中で、こんな話を聞かせてくれました。

「先生にはお話していなかったのですが、実はここに来る前に、別の歯科医院に1日だけ勤めて辞めたんです。」

最初は驚きましたが、続けて聞いたお話は、採用に携わる立場として非常に示唆に富むものでした。

その前職の院長先生はとても理解のある方で、出産・育児を経ての現場復帰に対して不安があるようなら遠慮せずに言うように言ってくださいました。2歳の子供がいても、保育園に預けながら無理のないよう配慮する体制も整っているから安心してねと言われて嬉しかったです。

ところが、初出勤の日、在籍していたスタッフからのこんな言葉に、思わず心が折れてしまったそうです。

「2歳の子どもがいるんでしょ?保育園って聞いたけど、休まれると困るから。」

「自分に入っているアポは自分で責任もって診てね。急に休まれたら、誰が診るのって話なんだけど。」

あまりに唐突で、あまりに冷たい言葉です。その後も何とか1日をやり過ごしたものの、終業後に「今日で辞めさせてください」と院長先生に伝えたといいます。

スタッフが辞める理由、院長先生は知っていますか?

この話には続きがありました。

退職を申し出た際、院長先生は「またか…」といった表情を浮かべながらも、すぐに理由を理解してくださり、実は以前から在籍スタッフの問題行動を把握していたとのこと。何度も注意したものの改善されず、困っていたという背景もあったそうです。

院長先生が良き理解者であっても、現場の人間関係や受け入れ体制に問題があれば、せっかくの採用も失敗に終わってしまうのです。

「採用」はスタート、「定着」こそがゴール

今回のケースで改めて感じたのは、小規模歯科医院における“マンパワー”の限界とリスクです。

スタッフが2名体制の現場では、1人の態度や言動が新しい人材に与える影響が大きすぎます。1人での採用では、その「受け皿」が整っていない限り、続けてもらうのは非常に難しいと感じます。

だからこそ、採用は“人数”で考えることも必要です。新しい風を入れるためには、最低でも2名以上の同時採用や、現スタッフとの関係性を見直す仕組みが必要だと思います。

そんな彼女が今の医院に入職してから

その歯科医院を1日で退職したあと、現在の歯科医院に入職しました。
「こちらでは皆さんがとても優しく接してくださって、本当に良かったと感じています。まだ入職して1か月ですが、一日も早く仕事を覚えて、皆さんに追いつけるよう努力していきたいと思っています」とのことでした。

“現場の声”から見える医院の本当の課題

今回、面談を通してスタッフの本音に触れることができました。前職を1日で辞めた彼女の話以外にも、他のスタッフから医院を良くしていくための意見を聞くことができました。煩雑な部分がある診療の流れや、暗黙の了解になっている曖昧な点など、改めて改善していく方向性が見えてきました

「職場は決して“仲良しグループ”を作る場所ではない」ということ。
もちろん人間関係が良好であるに越したことはありませんが、それ以上に大切なのは、お互いを尊重しながら、仕事に集中できる環境であることです。

スタッフ同士の関係性に気を使いすぎたり、逆に気を使わなすぎて軋轢が生まれてしまったり…。
そうした「ちょっとしたこと」が、日々の働きやすさや定着率にも大きく関わってきます。

だからこそ、面談の場を設けることはとても重要だと感じています。日常の業務の中では気づきにくい、スタッフ一人ひとりの感じていることを丁寧に拾い、院長先生と共有していくことが、これからの組織づくりにつながっていくと実感しました。