医療の現場であるべき歯科医院で、残念ながらパワーハラスメント(パワハラ)が起きているという現実があります。

今回は、私が実際に勤務していた歯科医院でのパワハラ事例や、顧問先の事例を含めながら、業界の現状と対策についてご紹介します。


実際にあった歯科医院でのパワハラ事例

私が過去に勤務していた歯科医院では、歯科医師のパワハラが原因で、少なくとも4名の歯科衛生士が適応障害を発症し、退職する事態となりました。パワハラと判断された具体的な言動は以下のようなものでした。

  • 患者さんの前で歯科医師からの厳しい叱責 
  • 「学校で教えてもらわなかったのか?」
    「こんな基本的なこともわからないの?」
    「前にも言いましたよね?」
    「私が覚えている限り、最低3回は説明してます」
  • 休憩時間の私語やリラックスタイムにも院長が口出し スタッフ同士で動画を見ていると「休憩時間内でも勉強しようと思わないのか?」と叱責

これらは単なる「指導」や「教育」とは言えません。精神的に追い詰められ、休職や退職に追い込まれたスタッフの存在が何よりの証拠です。

これは、「職場環境を壊すパワハラ」といえる非常に深刻な事例です。

➡ 関連記事:不機嫌ハラスメントが職場を壊す


歯科医院でパワハラが起こる背景

院長が現場と経営の両方を担っている歯科医院では、どうしてもパワーバランスが一方的になりやすい傾向があります。院長が「正義」となり、反論しづらい空気が生まれやすいため、気づかないうちにパワハラに発展してしまうケースも少なくありません。

また、パワハラの加害者が必ずしも院長とは限らず、先輩スタッフが実質的な「権力者」になっているケースもあります。

実際に、顧問先の歯科医院のスタッフから、こんな声がありました。

「この人とうまくやらないと、この歯医者で働いていけないので。」

つまり、「院長の顔色」ではなく、「先輩スタッフの顔色」を見ながら働かざるを得ない職場も存在するということです。

毎日神経をすり減らしながら勤務する状況には、いずれ限界が来ます。こうした「人間関係による支配構造」もまた、職場環境を悪化させ、離職やメンタル不調を引き起こす要因となるのです。


スタッフが声を上げられない理由

  • 評価を下げられる恐怖
  • 患者さんの前で叱られる屈辱
  • 辞めたくても辞められない職場環境

こうした構造が、スタッフの心と体を静かに、確実に追い詰めていきます。


パワハラ対策には「仕組み化」と「第三者の視点」が必要

パワハラを未然に防ぎ、スタッフの心を守るためには、「指導」と「ハラスメント」の違いを経営者自身が理解し、社内での明確なルール化や相談窓口の設置が必要です。

また、第三者の視点を取り入れた研修や定期的な面談なども有効です。

➡ 関連記事:ハラスメント対策と具体事例について


パワハラがもたらす医院経営への影響

パワハラがある職場では、スタッフのモチベーション低下人材流出が止まらず、結果として患者満足度の低下にもつながります。

歯科医院経営において、スタッフの「笑顔と安定」がどれほど大切か、今一度考えてみる必要があります。


パワハラはどこに通告されるのか?通報後どうなる?

歯科医院内でパワハラが発生した場合、被害を受けたスタッフは外部機関に相談・通報することが可能です。

主な相談・通報先は以下の通りです:

  • 労働基準監督署
  • 都道府県労働局(総合労働相談コーナー)
  • 各地のハラスメント相談窓口
  • 弁護士や労働組合

もし「労働基準監督署」に相談・通告され、パワハラが労働基準法違反に該当すると判断された場合、是正勧告や行政指導の対象となる可能性があります。

また、近年では被害者が民事訴訟を起こし、損害賠償請求や慰謝料請求に発展するケースも増えています。医療機関としての信用にも大きなダメージが及び、求人への影響や患者離れにつながる恐れもあるため、他人事では済まされません。


先生の医院は大丈夫ですか?

院長先生やマネージャーの「指導」が、スタッフにとっては「攻撃」に感じられているかもしれません。

小さな違和感を放置せず、安心して働ける環境を整えることが、医院の未来を守る第一歩です。