異業種からの応募者、好印象の面接

ある小規模歯科医院で、歯科助手兼受付スタッフの採用面接を行いました。
応募者は、以前は靴屋さんで長く勤務されていた方。医療業界は未経験ながら、接客経験が豊富で、売上向上の工夫や、お客様対応のスキルも身についている印象でした。

面接では、
「医療業界に以前から興味があり、今は医療事務の勉強をしています」
と、前向きな気持ちを明るく話してくれました。老若男女問わず接客をしてきた経験を、自分の強みとして活かしたいという姿勢も好印象でした。


「マニュアルはありますか?」という質問

面接の終盤、「何か質問はありますか?」と尋ねたところ、返ってきたのはこの質問でした。

「マニュアルはありますか?」

この医院では、業務用の操作マニュアル(レセプトソフトや機器の扱い方など)はあっても、新人教育に特化したマニュアルは存在していませんでした。

新人スタッフには、受付なら受付で先輩の仕事ぶりを見て、その場で都度教えるスタイル。
つまり「教える人がそばにいてこそ成立する教育体制」だったのです。

その旨を丁寧に伝えると、「わかりました」と笑顔で答えてくれました。
面接後、院長先生も「採用でいいと思います。連絡してください」とおっしゃり、こちらとしても良い方に出会えたという気持ちでした。


翌日の連絡:「辞退させてください」

ところが、翌日。彼女から電話がありました。

「医院様も面接の雰囲気もとても良かったのですが…
マニュアルがないと聞いて、不安になってしまいました。
医療業界は初めてで、自分で確認できるものがないのは不安です。
大変申し訳ありませんが、辞退させてください。」

採用を決めていたこちらとしては、非常に残念な連絡でした。


小規模歯科医院にこそ必要な「受け入れ体制」

今回の辞退理由は、まさに「受け入れ体制」の不備。
医院の雰囲気や面接対応に問題があったわけではなく、「新人として安心して働ける環境」が整っていなかったことが、不安を生んだのです。

歯科業界全体で採用難が続いている今、異業種からの転職者も増えています。
経験者であっても、医院ごとのやり方を一から覚える必要があります。
そうした方々にとって、“自分で確認できるマニュアル”は安心材料であり、入職の決め手になることもあります。


実際にマニュアルを作ってみて感じたこと

この経験をきっかけに、当該医院ではマニュアル作成に取り組むことになりました。
新しく入職したスタッフと一緒に、「最初に覚えること」「受付の手順」「準備物一覧」などを整理し、院内マニュアルを作成。

すると、新人スタッフからは、

「先輩がそばにいなくても、マニュアルを見て確認できるので安心です」

という声があがりました。
マニュアルの存在が、新人スタッフの自信にもつながっているのです。


おわりに:未来の採用のために

今回の一件から、改めて実感したのは、

マニュアルは「人材確保のためのツール」であり、「医院の信頼づくりの一歩」である

ということです。

マニュアルの整備は時間と手間がかかりますが、それ以上に大切な「人を安心して迎える仕組み」が整うことになります。
小規模歯科医院だからこそ、「人を育てる仕組みづくり」に、少しずつでも取り組んでみてはいかがでしょうか?