歯科医院の受付で、よく耳にする言葉があります。

「もしご都合が悪くなったら、お早めにお電話くださいね」

丁寧で、やさしくて、いかにも気配りのある表現です。
ところが、現場を見ていると、このひと言が予約の重みをそっと下げてしまっているケースが少なくありません。

患者さんの頭の中では、無意識のうちに
「この予約は、あとで動かしてもいいもの」
という位置づけになってしまうのです。

もちろん、受付スタッフが悪いわけではありません。
多くの医院で“当たり前のように使われている言葉”だからこそ、見直されにくいのです。

ただ、言葉には確かに心理的な影響があります。
予約をどう渡すかで、キャンセル率や治療の継続率が変わる――
これは、現場で何度も目にしてきた事実です。

実際に、ある医院では
予約時の伝え方を見直しただけで、

  • 歯科衛生士枠のキャンセル率が大きく低下
  • 治療の途中離脱も明らかに減少

という変化が起きました。


なぜ「予約の優先度が下がる言い方」をしてしまうのか

多くの医院が同じ言葉を使ってしまう理由は、実はとても人間的です。

  • 患者さんの都合を考えたい
  • クレームにならないようにしたい
  • やさしい医院だと思われたい

こうした配慮の裏には、
スタッフ自身が感じるストレスを避けたいという気持ちもあります。

ただ、この配慮が結果的に、

  • 予約は簡単に変えられるもの
  • キャンセルしても悪くないもの

という認識を患者さんに与えてしまうことがあるのです。

受付や歯科衛生士の「たったひと言」が、
医院全体のキャンセル傾向をつくっている――
そう言っても言い過ぎではありません。


患者が「この予約は大事にしよう」と思う3つのポイント

では、どうすれば押しつけにならず、
自然に予約の重要度を高められるのでしょうか。

現場で効果があったのは、次の3点です。

① 治療の意味を、先に共有する

患者さんは「自分にとって意味のあること」には時間を使います。
なぜこの間隔で来院するのか、を先に伝えることが重要です。

② 患者の取り組みを言葉にして認める

「ちゃんとできている」という実感は、行動を続ける力になります。
自尊感や自己効力感が、通院の継続につながります。

③ 「あなたのために時間を確保している」という姿勢を伝える

これは義務感を与えるためではありません。
患者さんに安心感を持ってもらうためのメッセージです。


今日から使える、次回予約の伝え方(考え方)

例えば、歯科衛生士枠の予約であれば、こんな流れです。

① 目的を共有する
「今日お話しした状態を安定させるためには、〇か月ごとの管理が一番効果的です」

② 患者の行動を肯定する
「〇〇さんはセルフケアもきちんと続けていらっしゃいますね」
「このペースを保てると、今の良い状態を維持しやすくなります」

③ 予約の意味を添える
「では、そのためのお時間を〇〇さんの治療のために確保しておきますね」
「私も次回に向けて準備してお待ちします」

この伝え方は、

  • 無理に縛るものでも
  • 強制するものでもなく

患者さん自身が『この予約を大切にしよう』と思える設計になっています。


同じ内容でも、言い方で結果は変わる

よくある言い方
「次の予約、いつにしますか?ご都合悪ければお電話ください」

→ 予約の主導権が“予定の空き時間”に置かれる
→ 歯科が後回しになりやすい

伝え方を変えた例
「〇〇さんが目指しているお口の状態を保つには、今の来院間隔が大切です」
「歯周病は状態が静かな時期と動く時期がありますので、今のケアを一緒に続けていきましょう」
「では、そのための次回の日時を決めましょう」

→ 主語が“患者さんの未来の健康”になる
→ 予定の中で歯科の優先度が上がる

人は「大切に扱われている」と感じると、
その約束も自然と大切にします。


最後に|患者が主体である、という考え方

患者さんの健康を守る主役は、医療機関ではありません。
あくまで患者さん本人です。

歯科医院は、その選択と行動を支える存在です。

この「患者が主体」という状態が保たれると、
患者さんは自分の健康に責任を持ち、
結果として予約も治療も大切にするようになります。

多くの医院では、無意識のうちに
ドクターやスタッフが“治療の主体”になってしまいがちです。

私は、そこを少しずつ変えていくために、
医院のスタッフの方々とも関わっています。

スタッフの成長も、患者さんの行動も、
どちらも「自分ごと」になったときに動き出します。

だからこそ、言葉ひとつ、伝え方ひとつを大切にしたいと考えております。