「行ってはいけない歯医者」と検索してみたことはありますか

検索すると膨大な数の動画がヒットします。実際、このキーワードは歯科関連の検索トレンドとして、注目を集めているようです。

私自身も気になって、いくつかの動画を見てみました。確かに、歯科医師が登場して「行ってはいけない歯医者」について語る動画が数多く存在していました。ただ、その内容を見てみると、正直なところ「うーん」となるものが大半でした。

当たり障りのない「優等生的」な動画の氾濫

多くの動画で語られているのは、こんな内容です。

「清潔ではない、散らかっている歯医者はダメ」 「診療室がきれいに清掃されていることが重要」 「先生が話を聞いてくれない歯医者は避けるべき」 「しっかりした説明がない歯医者はダメ」

これ、確かに間違ってはないし、むしろ当たり前すぎる気がします。患者さんに向けて、「そりゃそうだよね」と誰もが思うような、無難な内容ばかり。再生回数を稼ぐためか、検索されやすいキーワードを使っているだけに見えてしまいます。

考えてみれば、「行ってはいけない歯医者」というワード自体が、検索エンジンで上位表示されやすいトレンドキーワードなんですよね。だから、多くの歯科医師がこぞって動画を作っているのかもしれません。患者さん向けのコンテンツとして、いわば「安全パイ」を狙っているように感じます。

逆に「良い歯医者の見分け方」というポジティブなアプローチの動画も多数見つかりました。こちらも完全に患者さん向けの内容で、当然ながら当たり障りのない話に終始しています。

リアルな歯科界の「あるある」を語る動画も

ただ、そんな中でも、顔出しで本音を語っている先生の動画もいくつか見つかりました。こちらは、歯科業界の「あるある」や裏側を暴露するような内容です。

例えば、「トリートメントコーディネーターがいる歯医者」という話題。トリートメントコーディネーター(TC)というのは、患者さんと歯科医師の架け橋となる役割を担う民間資格です。患者さんの不安や要望を聞いて、治療内容を分かりやすく説明するという、本来は素晴らしい仕組みなんですよね。

実際、多くの歯科医院では、患者さんとのコミュニケーションを円滑にするため、また歯科医師や歯科衛生士の業務負担を軽減するために導入されています。患者満足度の向上や、自費診療の受け入れ率向上にも貢献すると言われています。

ところが、一部の動画では「TCがいる歯医者」を避けるべき対象として挙げているんです。これは恐らく、TCを営業的に使っている医院があることを指摘しているのだと思います。TCの本来の役割である「患者さんに寄り添うこと」ではなく、「自費診療を売り込むこと」が目的化してしまっている医院の存在を暗に示唆しているのかもしれません。

「水を買うように勧められる」という指摘の真意

もう一つ、興味深かったのが「水を買うように勧められる。これでうがいするように勧められる」という話題です。

これについて調べてみました。歯科医院で販売されている「水」というのは、おそらく次亜塩素酸水やEO水といった殺菌機能水のことを指しているようです。実際、多くの歯科医院では、こうした機能水を院内の給水システムに導入していたり、患者さん向けにホームケア用として販売していたりします。

次亜塩素酸水は、食塩水を電気分解して作られる殺菌効果の高い水で、虫歯や歯周病予防、口腔内の洗浄に効果があるとされています。人体に無害で、最終的には水に戻るという特性があり、多くの医療機関で使用されています。

当院でも扱っていらっしゃる先生方も多いのではないでしょうか。これ自体は、決して悪いものではありません。むしろ、患者さんの口腔ケアを真剣に考えた結果の提案だと思います。

ただ、問題は「勧め方」なのかもしれませんね。押し売りのように感じさせてしまったり、効果を過剰に謳ってしまったりすれば、患者さんは不信感を抱いてしまいます。良いものであっても、伝え方一つで患者さんの受け取り方は大きく変わってしまう。そこを指摘しているのかもしれません。

この現象が私たちに教えてくれること

患者さんは今、かつてないほど情報を得やすい環境にいます。動画やSNSを通じて、様々な歯科医師の意見に触れることができる。それは良いことでもあり、同時に混乱の原因にもなっています。

当たり障りのない動画ばかりでは、患者さんの心には響きません。だからこそ、少し刺激的な、「業界の裏側」を暴露するような動画が注目を集める。これは、患者さんが本当に知りたいのは、教科書的な正解ではなく、「リアルな情報」だということの表れではないでしょうか。

でも、その「リアルな情報」が必ずしも正確とは限りません。一部の問題事例を、まるで業界全体の問題であるかのように語られてしまうこともあると思います。

私たちにできることは何か

この状況の中で、できることは何でしょうか。

それは、透明性とコミュニケーションの質だと考えています。

例えば、トリートメントコーディネーターを導入しているなら、その役割を患者さんにしっかり説明する。「私たちのTCは、あなたの不安を解消し、最適な治療計画を一緒に考えるためにいます」と。決して押し売りのための存在ではないことを、態度と言葉で示す。

機能水を販売するなら、その科学的根拠と効果、そして「必ずしも買う必要はないけれど、こういう方には特におすすめです」という誠実な説明をする。売上のためではなく、本当に患者さんのためになると信じているからこそ、提案しているんだということが伝わるように。

そして何より大切なのは、患者さん一人ひとりと向き合う時間を大切にすることだと思います。「タコ焼き診療」という言葉があります。複数の患者さんを同時並行で手早く診療する、効率重視のスタイルのことです。確かに、日本の保険診療制度の中では、時間をかけても収益に結びつきにくいという構造的な問題があります。

でも、患者さんが本当に求めているのは、自分の話をしっかり聞いてくれて、丁寧に説明してくれる歯科医師ではないでしょうか。たとえ短い時間であっても、「この先生は私のことを考えてくれている」と感じられる関わり方が、信頼関係を築く第一歩だと思うんです。

動画に振り回されない、自分たちの軸を持つ

「行ってはいけない歯医者」という動画がたくさんある中で、私たちはどう向き合えばいいのでしょうか。

確かに、そうした動画の中には、業界の問題点を鋭く指摘しているものもあると思います。大切なのは、歯科医院の軸をしっかり持つことが大事なのではないでしょうか。

動画は、所詮は他人の意見です。中には的を射たものもあれば、視聴回数稼ぎのための過激な主張もあります。

最終的に患者さんが信頼するのは、目の前で真摯に向き合ってくれる歯科医師です。動画の中の誰かではなく、実際に自分の歯を診てくれている「先生」なんです。

まとめにかえて

患者さんの情報リテラシーが上がり、歯科医院を選ぶ目が厳しくなってきています。本当に患者さんのことを考えている医院は、この混沌とした情報の海の中でこそ、光り輝くことができるはずです。

当たり障りのない優等生的な話も、過激な暴露話も、結局のところは「他人の土俵」だと思っています。

動画に振り回されず、耳を傾けるべき部分には謙虚に耳を傾けて、自分たちの医院をより良くしていく。そんなスタンスで、この情報過多の時代を乗り越えていければいいと感じています。